2009年07月08日

梨沢・七ツ釜編1 〜梨沢へ〜

危険な二子山の登山から1ヶ月半。
また次の登山企画を考えた。

今までの登山はこういう流れだ。

・第1回 棒ノ折山(969m):前半が沢登り、後半に木の階段が多い。霧の中の幻想的な登山となった。

・第2回 般若山(400〜500m):急登の岩山。初の岩場にドキドキ。日が暮れて途中で引き返して敗退。

・第3回 金勝山(264m)&官ノ倉山(345m):20分で登頂可能な低山ながら、街に面して眺めは良い。

・第4回 二子山(1166m):般若山を軽く超える危険度MAXの岩山。川やんとフッチーの二人が西岳尾根を完全走破!


沢、岩、楽、超岩ときてるので、次は岩はやめておこう。2回続けて命賭けではエスカレートする一方だ。
と言って、楽過ぎる場所だけのために、わざわざ遠出するのも面白くない。
今までは埼玉の山ばかりなので、そろそろ他県の山も行ってみたい。
僕と同じく千葉に住むナカシマンが般若山以来の参加となったので、千葉の山にしてみようか。

千葉の山は、高くても標高が400m程度なので、標高を稼ぐよりも距離を稼ぐことになりそうだ。
距離を稼ぐにしても、複数の山を組み合わせるしかない。
だとしたら、山を捨てて沢歩きをメインに考えてみるか。
ちょうど良さげな沢が、千葉にはあった。

その名は、梨沢。
梨沢の奥には七ツ釜という淵が点在する。
ネットで調べると、淵の深さは腰上程度。落ちても足が付く。
急流もなく、穏やかな沢を歩いていくようだ。

第1回の棒ノ折山も沢登りだったが、その時は沢に入らなくても登れた。
今回は、あえて沢に入って歩く企画である。

参加者は5人。
前回二子山で大活躍したエースの川やん、西岳で引き返した落ち武者の僕と慎重派ホリー、千葉在住のナカシマン、そして急遽ナカシマンの後輩のモンドリーが連れ出された。
モンドリーは初参加で、普段運動もせず登山も自信ないとのことだが、最年少なので活躍に期待だ。


予定日は6月7日の日曜日。
だが、数日前から大雨が続き、日曜当日も雨の予報。
予定が流れると思っていたが、前々日の金曜夜には、雨は日曜午前までとの予報に。
(どうせ沢で濡れるし、小振りなら行っちゃうかな〜)

悩んでいると、前日土曜の朝には雨がやんだ。
そして、日曜の予報は、曇り、気温27℃になった。
(行ける!)
雨の後なので沢の状態が心配だが、気温も高く、濡れて凍えることもないだろう。


寝不足が続いてたので、今回はたっぷりと睡眠を取ろうと思っていたが、バイクの音で目が覚めて3時間しか眠れず。
出掛ける時はいつも寝不足だ。

6時45分、僕は車を運転して出発。
今回の目的地は千葉県内なので、僕は遅めの出発で大丈夫だ。

都内から電車で来るホリーと川やんを拾うために、船橋駅へ向かう。
7時半、船橋駅にホリーが現れる。
ホリーが車に乗り込むと、少し酒臭い。
「ちょっと夜更かしをしてしまいまして…」
昨夜は、深夜までサッカー日本代表の試合を観ながらビールを飲んだとのこと。
僕と同じく寝不足のようだ。

続いて川やんも船橋駅に到着。
車に乗せて出発するも、車内にビールの匂いが漂う。

「ちょっと酒臭いから窓開けますか〜」
僕が言うと、
「あ、やっぱ分かります?」
川やんが答える。
酒を飲んでたのはホリーのはずなのに!?

「昨日、遅くまで飲んじゃって、あまり寝てないんですよ。まだ酒が残ってるかな」
なんと川やんも飲んでいた!

「なんだ、俺が酒臭いかと思ってたら、二人ともかい」
ホリーも驚く。


寝不足3人組みが車窓から酒の匂いを撒き散らしながら、8時に千葉市内でナカシマンとモンドリーと合流。
高速に乗って一路南に、房総半島へ。

「僕、千葉に長らく住んでるのに千葉市内より南に行ったことないんですよ。楽しみだな〜」
ナカシマンの初房総だ。

川やんとナカシマンの会話が弾んでいる内に、風景は工業地帯から緑に変わった。
千葉の山は低いので、見渡す限り丘のように緑が連なる。
曇りの予報だったのに空は青く、房総半島のイメージも良くなる。


木更津を過ぎて君津市で高速を降り、国道127号を南へ。
右手に海が見えたので、寄り道。

上総湊の浜.jpg

9時半、上総湊駅付近の浜辺で休憩。
海域は東京湾の出口の浦賀水道で、横須賀市が10km向こうの対岸に見える。

上総湊の浜2.jpg

海へ向かって竿を構える釣り人も多い。
「千葉市内の海とは違いますね〜」


海を離れて内陸部へ。
川を渡って小道に入っていくと、カーナビに道が表示されてないが道は続いている。
これでは道を間違っても気付かないが、まぁ川沿いに行けば目的地だろう。
僕らはその川の上流へ登ってくのだから。

民家のある集落を抜けると、何も建物がなくなった。
かなり山奥まで来たかと思っていると、また集落が現れる。
その集落が、さっきの集落より栄えてたりして不思議だ。この先は林道しかないのに。


目的の梨沢集落に着く。
車を停める場所を探して走るが、路肩が狭い場所ばかりで、路駐したら他の車の通行に支障をきたす。

民家のない方へと坂をどんどん登っていくが、路肩がない。
あまり登ると、あとで沢に降りなければいけないので、面倒になる。

ようやく路肩の拾い場所があったが、地元の人たちが路肩の草刈りをしてる。
邪魔になるかと思いつつ、駐車可能か聞いてみた。

「ああ、いいですよ。私らも休憩すっから」
おじさん達の許可が出た。

10時、車を停めて身支度を整える。
「沢に行くなら、そっちから降りるといいよ」
おじさんが道を教えてくれた。

道を降りていくと神社があり、地元の人たちが集まっている。
除草作業の休憩中なのだろう。

「こんにちは〜」
よそ者の僕らは挨拶をする。

「どこまで行くん?」
「七ツ釜まで行こうかと」
「ええ?けっこう遠いよ〜」
地元の人が一瞬驚いた表情をした。
七ツ釜とは一体どういうとこなのだろう?

「鮎とかいるかもな」
「イノシシ出るから気を付けろよ」
う〜む、どんな沢なのだろう?

「まぁ、神社でお参りしてけや」
「はい、そうですね」

僕らが神社の境内に入っていくと、社殿の階段におじさん達が腰掛けている。
僕らはおじさん越しに神社に手を合わす。

「あれ?俺らが神様かい?」
コントの様なやり取りの後、僕らは神社の横手から沢に向かって降りていった。

ある程度降りていくと、登り坂。
この短い登り坂で、僕とホリー、初参加のモンドリーが息切れ。
この先に不安を感じさせる。

梨沢トンネル.jpg

坂を登って狭いトンネルを抜けると、梨沢近辺の案内図があった。
案内図の前に駐車スペースがあり、ここまで車で来れるようだが、トンネルは狭いし、地元の人用だろう。
ルートを確認して、さらに下っていく。

梨沢への下り.jpg

雨の後のせいか道はぬかるみ、数人が危うく転倒しかける。
こんなんで沢歩きが出来るのだろうか?

梨沢水田.jpg

「お、やっと沢に出ますよ!」
ナカシマンが声を上げて盛り上げる。
薄暗くぬかるんだ木々の下から、光溢れる沢の世界へ!

梨沢の水田.jpg

…と思ったら水田だった。
沢はもう少し下にあるっぽい。
「誰ですか、沢って言ったの〜」

   〜続く〜
ニックネーム SNJ at 21:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 登山

第六大陸1巻

知人のマンガ家『吉祥寺笑(きちじょうてらえ)』さんが、ネットで読めるYAHOO!の無料マガジン『FlexComix ネクスト』で連載中の『第六大陸』がついに単行本化。

現在ネットでは、1話目と4、5、6話は無料で読めます。
作品を読むビューアーをインストールすればいいだけで、面倒もありません。
下記のアドレスからどうぞ。

http://comics.yahoo.co.jp/magazine/next/dairokut01_0001.html
ニックネーム SNJ at 20:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2009年07月05日

二子山編8 〜下山〜

下山に入った。
僕は険しい道に進んでないのに、いつの間にか打撲や擦り傷が出来ていた。
手強い山だった。

二子山下山.jpg

振り返れば、飲み物を飲むホリーの背後に西岳が広がる。
この山容をバックにすれば、誰でもカッコ良く見えるに違いない。

二子山下山3.jpg

見晴らしの良い道を、両神山を前にして下山。
両神山は、岩肌こそ見えてないものの、その稜線は二子山以上にギザギザである。

二子山下山4.jpg

鉄塔のある辺りが特に開けており、展望も良い。
中央奥は、秩父のシンボルの武甲山だ。
去年の12月に登った山も、この山並みのどこかにあるはずだ。

二子山下山2.jpg

フッチーが今日の戦いの場を振り返って望む。
万感の思いであろう。
V字に切れ込んでいる股峠の近くの駐車場から行き来すれば楽だったが、二子山を振り返りつつ下山できるので、このルートにしたのだ。

二子山下山5.jpg

鉄塔下を離れると、道は木々に埋もれていく。
危険はないが、地味な登山道だ。
落ち葉と枯れ枝を踏み締めながら下っていくが、足取りは重い。
予想以上に膝が疲労しており、一歩踏み出すたびに痛くなってくる。


二子山下山6.jpg

下山を始めて40分。
車道が見えてきた。
危険な山の世界から元の日常世界へ、フッチーがダイブ。
「やっと戻ってきた〜」
「アスファルトだ〜」

二子山下山7.jpg

ここからは車を停めた場所まで10分ほど歩く。
車道歩きは面白くないが、傾斜も緩やかで楽だ。

二子山全容.jpg

最後に車道から二子山の全容が見えた。
向かって右が東岳、左が西岳だ。
二子山という名はありふれているが、この山容は個性溢れる。
植林地帯と伐採部分、そして岩場のコントラストが良い。

「こんなに降りてきたんですね〜」
フッチーが呟く。
1時間半前まで、あの山頂にいたのが不思議だ。


16時、車に戻る。
約6時間の冒険だった。

「じゃ、温泉行きましょか」
「イエ〜イ!」

車を走らせながら、今日のことを話す。
「そういや西岳の向こう側でメガネの人、見掛けた?」
「いや、全然追い付けませんでしたし、遠くに姿も見えませんでした」
川やん達の前方にいたはずのメガネ兄さんは、登山の達人なのだろう。

「地元の人なんじゃないですかね。でないと、あんなに速く行けないですよ」
ホリーが仮説を立てた。
「なるほど〜。何度も登ってるわけですか」

そんな話をしながら、バス停の前を通り掛った。
すると、バス停のベンチにメガネ兄さんが座って本を読んでいた。

「あ、バス待ってる!地元の人じゃないっぽいですね」
「やっぱ忍者だわ!」

二子山の山頂で出会ったおじいさん二人組みもキリマンジャロ登頂などすごかったが、メガネ兄さんはこの先どこまですごくなるのだろう?



温泉は、両神温泉薬師の湯というとこにした。
露天がなかったのが物足りなかったが、リラックスできた。

まだ18時前だったので、夕飯は飯能市内まで戻ってからにした。
19時には食べられるだろう。
国道299号を東京に向かって走る。

山道で日が暮れ、疲れからかみんなウトウトしだした。
僕もウトウトしてくる。

「ヤバイっす。眠いっす」
僕は助手席のホリーに訴える。

「ええ?頑張って下さい」
「何か面白い話して下さい」
「ええ〜?何もないですよ〜」
「何でもいいです…」
「え〜と………」

そんなやり取りをしてると、さらに眠くなってくる。
せっかく滑落もせず無事に命を持ち帰ってきたのに、こんなとこで命を失うわけにはいかない。
特に後部座席の川やんとフッチーは、命懸けで西岳を走破してきたのだ。
僕が無事に送り届けねば。


飯能市に入って、市街地までもう少しというとこに来た。
そこで、対向車線で信号待ちをしていたスポーツカーが、急加速と共に僕らの斜線にはみ出してきた。

「危ねっ!」
僕はハンドルを切って、回避。

「何ですかね、今の車?明らかにはみ出してきましたよ」
ホリーもビックリしたようだ。

「ぶつかりそうでしたね。やっぱ眠いからな〜」
「いやいや、今の機敏なハンドル捌きは眠い人には出来ませんよ。ホントは眠くないんじゃないですか?」
ホリーが疑うが僕は眠かった。

「ははは…」
今ので目を覚ましたのか、後部座席の川やんが乾いた笑い声を上げた。



レストランで満腹になって、都内へ。
飯能から2時間ほど掛かるが、お腹も満たされて話も弾む。
後は一人ずつ降ろしてけばいい。

フッチー、ホリー、川やんの順に家のそばで降ろし、そこからは僕一人で運転。
話し相手もいないし、やはり眠くなる。

一人、車中で歌いながら運転。
あの手この手で眠気を覚ます。

午前0時、無事帰宅。
すぐに今日撮った写真を確認する。
(こんなとこ歩いてたんだなぁ)
今までで最も険しく危険な登山であった。

二子山は、僕には荷が重過ぎたが、とても素晴らしい山だった。
西岳山頂の向こう側と、東岳の鎖場の向こう側に行かなければ、誰でも登れるだろう。
ゴム長靴でも、十分登れるのも確認澄みだ。
股峠近くの駐車場を使えば、股峠まで5分。
岩場部分だけを気軽に味わえるが、間違えても上級コースに行ってはならない。

   〜二子山編・完〜
ニックネーム SNJ at 00:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 登山

2009年07月04日

二子山編7 〜西岳の向こう側〜

薄暗い森から光の中へ出た僕の目に見えたのは、上方の薄暗い森の中を歩く二人の姿だった。

二子山合流.jpg

暗くて見えないが、二人の気配がある。
危険な尾根を通り抜けて、そこまで降りてきているのだ。
僕は森の中を撮る。

二子山合流2.jpg

僕も彼らから撮られていた。
合流地点は魚尾道(よのおみち)峠。
僕とホリーは下方の道から、川やんとフッチーは上方の道からそこに向かっている。

二子山合流3.jpg

上から降りてくる二人の姿が、だんだんとはっきりしてくる。
逆光で、危険な尾根を越えてきた二人の勇姿がシルエットになる。
「お疲れさ〜ん!カッコいいね〜。カッコ良すぎるよ!」
僕は下から声を掛ける。

危険な道を来た二人、安全な遠回りの迂回路を来た僕とホリーがほぼ同時に峠に到達した。
僕はデジカメで動画を撮りながら二人を迎える。
「お疲れさ〜ん!どうぞ、今の心境を」

「ざっとこんなもんですよ」 by 川やん
この場では大言もカッコいい。

「楽しかった〜」 by フッチー
安堵と達成感の混じった笑みを浮かべている。

50分振りの再会となった。
一時はどうなることかと思ったが、みんな無事で何よりだ。


僕はデジカメを二人に向けて気付いたのだが、二人の背後に聳える西岳の稜線の激しさに驚いた。
川やんとフッチーも振り返って驚く。

「うわ〜っ!これはスゴイ!」
「うちら、こんなとこ歩いて来たんだ!?」
さっきまでいたところの険しさを思い返しているのだろう。
よくもあんなところを歩いてきたもんだ。

ここの山が険し過ぎて、僕は面白写真を撮るのをすっかり忘れていた。
そんな余裕がなかったのだ。
「ここで集合写真を撮ろう。思い思いにポーズ決めて」

パシャッ!

二子山4人揃って.jpg

我々の背後に切り立つ西岳。
その稜線は凹凸が激しく、山頂がどこだかも分からない。
おそらく画面右から3分の1辺りが山頂だ。
そうすると、川やんとフッチーは山頂から左へとかなりの距離を歩いてきたことになる。


いったいどんな道だったのか?
彼らの撮った写真を見せてもらった。

西岳の向こう1.jpg

フッチーが岩にしがみ付いて渡っている。
背後は崖、岩の右側も崖だ。

西岳の向こう2.jpg

一段落ついて、西岳の中央峰を振り返って撮った写真。
山頂が、僕らが二手に分かれた中央峰である。
そこから切り立った尾根部分を、手前に向かって伝ってきたのだ。
山頂にかすかに見える立て看板の大きさがほぼ人の大きさなので、いかに巨大な岩壁か分かる。

西岳の向こう3.jpg

これから向かう先も、まだまだ切り立った尾根。
この道を行った二人によれば、歩いても歩いても尾根が続いたとのこと。

西岳の向こう4.jpg

登っては降り、降りては登る。
登ってみないと先は見えない。

西岳の向こう5.jpg

彼は這っているのではない。
とすると、手足が滑れば死が待ってるということだ。

西岳の向こう6.jpg

緊張状態が続き、高度感にマヒしてきたのか、気分良さげなフッチー。

西岳の向こう7.jpg

尾根は続くが、その向こうは下り基調。
ようやくこのルートも終わりだろう。

西岳の向こう鎖.jpg

だが、最後に鎖場が待っている。
鎖は7m程度だが、万が一滑り落ちれば急斜面で止まらないだろう。

西岳の底辺部.jpg

鎖場をクリアし、無事に西岳の土台部まで降りてきた。
この後、僕とホリーとの合流まではもうすぐである。



こうして写真を見せてもらって、僕には無理と思われる箇所がいくつかあった。
引き返して正解だったろう。

「いや〜、最初がいちばん怖かったですよ。そこさえ乗り切れば、後は行けますよ」
川やんはそう言うが、慣れただけだろう。
僕も最初だけ踏み出してみて、横風に吹かれて引き返したのだが、そこが行けたとしても、その先ではどんどん引き返すことが難しくなるのだ。

僕には行けなかったが、川やんとフッチーが西岳走破を達成してくれて嬉しかった。
そして、4人で下山できることが嬉しかった。

   〜続く〜
ニックネーム SNJ at 13:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 登山

2009年07月01日

二子山編6 〜再会を願って〜

若い川やんとフッチーが、西岳の向こう側へと進んでいった。
そこは一歩間違えば100m下に転落する、たいへん危険な尾根だ。

僕とホリーは、登ってきた道を戻る。
同じ道を戻るのは面白くないが、僕らは西岳の向こう側へ行けなかったのだから戻るしかない。

この後は股峠まで戻ったら、岩場の下の森の中を西へ向かって、川やんとフッチーと合流する予定だ。
僕らは彼らの2倍の距離を歩くことになるが、彼らは僕らの何倍も危険な道を歩いている。

(やっぱり引き止めておけば良かったかも…)
僕はこの登山の企画者として、判断ミスをしてしまったのではないかと思い始めた。
ポケットの携帯電話を取り出して画面を見るも、彼らからの連絡は来ていない。

何かあったら連絡が来るのか?
何かあったら連絡は出来るのか?
連絡が来て、僕に何が出来るのか?

ただただ、彼らの無事を祈るばかりである。


だが、僕とホリーも今現在、危険な道を歩いている。
一般コースとは言え、登るのに苦労した急勾配だ。
ときに、滑ったりしながら下山する。

僕はちょくちょく携帯をチェックする。
尾根から外れて山の陰に入ったからか、いつの間にか電波圏外になってしまった。

(これでは連絡が取れない)
僕は不安になる。

バラバラバラ!

その時、頭上にヘリコプターの音が通っていった。
(まさか!?彼らに何かあったのでは!?)
僕は携帯画面を見るも、やはり圏外。

もう一回、尾根まで登り返そうと思うも、結果の確認をすることしか僕には出来ない。
ここは急いで降りて、彼らの下山口に回り込むしかない。

僕は急いで降りるも、息は絶え絶え。
前方にはおじいさん二人組が降りているはずだが、追い付けない。


30分後、股峠まで降りてきた。
これから東岳へ向かうおじいさん二人組に最後の挨拶をして、僕らはそのまま急ぎ西岳南側の迂回コースへ向かう。

川やんとフッチーの降りてくるコースには、最後に7mの鎖場がある。
そこは岩場の垂直下降で、足場の確認が難しい場所だ。
僕が迂回ルートから先回りして、下から足場を確認してあげた方が良い。

「僕は先回りするんで急ぎますが、疲れたらいつでも休んで下さい」
僕はホリーにそう言うと、西岳の迂回コースを小走りに進んでいった。
ホリーも遅れまいと早歩きで僕に付いてくる。

西岳迂回コース.jpg

西岳の岩場の底部分だ。
山頂はこの上方100m。
見上げても木々に阻まれて見えない。
危険な道を往く二人は、今どの辺を歩いているのだろう?

クモの巣だらけの迂回コースは、最初の内はアップダウンも少なかったが、やがて登りも多くなってきた。
小走りの僕は、脚が重くなって息も上がる。
それでも、危険な道を往く二人を思えば、止まってはいられない。

西岳迂回コース2.jpg

道も不明瞭な薄暗い森の中。
もし危険な道を往く二人が足を踏み外したら…?
この森に落ちてくる…。
そんな光景は絶対見たくないが、僕は薄暗い森の雰囲気に飲まれていく。

小走りを続ける僕の脚が動かなくなった。
脚に力が入らない。
(ヤバイ…早く二人の下山口の鎖場に行かなくちゃ…)
這ってでも進まなければならないのに、呼吸も乱れて倒れそうになってきた。

僕は、急斜面で木に身を預けて座り込んだ。
そこへホリーが追い付いてくる。

「スミマセン、息が持たなくて。先に行って下さい…」
僕はホリーに先に行ってもらう。
小走りをした僕が動けなくなって、早歩きで確実に進んできたホリーが僕を追い抜く。
これが登山のスタミナ配分の難しさだ。
急ぐなら走ってはいけない。
特に僕のような体重の重い者は、登りも下りも付加が大きいのだ。


ホリーとの距離が離れていく。
少し息の整った僕は、また歩き始める。

西岳迂回コース3.jpg

森の向こうが明るくなった。
そこで森は終わりなようだ。
シルエットになったホリーが光の中へ吸い込まれていく。

「あっ!」
ホリーが声を上げた。

ホリーは何を見たのか?
その後、何も声は聞こえず、ホリーは光の中へ消えたまま。

(まさか、彼らの落下した姿が!?)
僕は不安になって、また走った。

そして、光の下へ走り出る。
そこで見たものは…!?

   〜続く〜
ニックネーム SNJ at 02:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 登山

2009年06月26日

二子山編5 〜その向こうへ〜

西岳山頂で写真を撮っていると、僕らの後から、長靴のおじさんとは別の二人組みのおじいさんがやってきた。
僕とホリーが山頂目指して登っている時に、後方からどんどん近付いてきた声の主だ。
若い人かと思ってたら、おじいさんだったとは。

西岳山頂昼食.jpg

挨拶をして、写真を撮って、昼食にする。
狭い足場での昼食だが、眺めは最高だ。

気分が良くなったフッチーが、立って伸びをする。
背後は100m級の崖で、フッチーの踵は崖ギリギリにある。
フッチーは腰を捻り始めた。

「後ろ、危ないよ」
見かねて、手を添えながら声を掛ける。

「え?…うわ〜〜っ!」
フッチーは崖っぷちに立っているのを忘れて、お昼を食べていたようだ。
気分は最高だが、ここは空中と言っても過言ではない場所だ。


西岳山頂から両神山.jpg

南方には、1700mを超す両神山のギザギザの尾根が見える。
今いる二子山に勝るとも劣らず、あちらも険しい山である。

「どちらから来たのですか?」
お弁当を広げながら、おじいさんたちが聞いてきた。

「僕は千葉から来ましたが、他は東京からです」
「私らは神奈川からです。今朝出発して、群馬の方から回って来ました。途中で渋滞してましてね」
股峠に近い駐車場から登ってきたようだ。

「どこの山に行っても、いるのは年寄りばかりだから、若い人に会うと嬉しいですねぇ。よく登ってられるのですか?」
「まぁ、たま〜にですけど。こんな険しい山は始めてです」
「この二子山は、由布岳に似てますね」
「由布岳って、九州のですか?いろいろ行ってますね」
おじいさんは気合が入っている。

「私は40過ぎくらいから山にハマリましてね。初めは長野の方の山に登ったら、思いのほか険しかったのが面白くて」
「長野は危険な山多いですよね」
「それからいろんな山に出掛けてって、1ヶ月で4回登ったかな」
僕らは1年で4回だ。

「そっから30年くらい登ってます」
「いや〜、お元気ですね」
40歳から登ってると言ってたので、計算すると、現在は70歳ほどであろうか。

「私よりあちらが年上でしてね。何歳だと思います?」
「70歳ちょっとですかね?」
「いやぁ、78ですわ」
「ええ〜!?若い!」
78歳で、この山頂に到達してることがすごい。

でも登山は経験のあるなしが重要だ。
おじいさんらは経験豊かで、岩場の登り方などをレクチャーしてくれた。


「日本の山だけじゃ物足りなくなって、キリマンジャロにも登ったんですよ」
「キリマンジャロ!?アフリカの!?」
「人生で海外なんて行かないと思ってたんですけど、定年したら暇になっちゃって」
「6000mくらいありますよね!?」
「5900mちょいかな」
78歳の方のおじいさんが標高を答える。
きちんと標高も覚えてるとは、肉体だけでなく頭脳も若いようだ。

「ヒマラヤの方も行きました。あれ、登山料いくらだったっけ?」
「いくらだっけねぇ?」
なんだか僕らとはレベルの桁が違う。

「あっ!」
その時、78歳のおじいさんがバスケット籠からおにぎりを手渡そうとして落っことした。
すぐに拾ったが、砂塗れになっていた。
「こりゃ食えねぇべな〜」
残念そうにゴミ袋に入れていた。

手が滑ったのがおにぎりだったからよいが、もし崖で手が滑ったら大変だ。
少し心配になってくる。

「あ!マヨネーズ持ってきてたの忘れてたわ!サラダ、味がないまま食べてた」
78歳のおじいさんは、バスケットの下からマヨネーズを取り出した。
キリマンジャロの標高は覚えてたのに、マヨネーズは忘れていたことが少し心配になってくる。

おにぎりやマヨネーズが入っていたのは、バスケット籠だったので、朝に自分達で作ってきたのか、奥さんが持たせてくれたのか。
興味深いとこである。


「私らはこの後、東岳に登ろうと思うんですが、どっちですかね?西と東が分からなくなっちゃって」
「東岳はあちらです。股峠に戻ったら、逆側の岩場を登って下さい。でも、危険な鎖場がありましたよ。僕は通れませんでした」
キリマンジャロにも登ったのに、東西南北を見失ってるのが少し心配になってくる。

「私は鎖場の向こうに行ってみますよ」
まぁ、この二人なら行けそうである。
今日は二子山で、明日は群馬の山に登るそうだが、元気で何よりだ。


「それじゃ、お気を付けて」
おじいさん二人は東岳に行くために、来た道を戻っていった。
僕らは、登ってきた道を戻るのは面白くないので、西岳山頂から先に進みたい。

しかし、そこに待ち構えるのは…、

西岳西峰へ.jpg

西岳の西峰へと続く、切り立った断崖。
岩陰に隠れて見えない部分がどうなっているのかも分からない。

試しに岩の向こうへ降りてみる。
幅50cmもない足場に立つ。
左側は100mの崖、右側も岩を挟んで崖。

「どうです?行けそうですか?」
フッチーが声を掛けてくる。
「う〜ん、そうだね〜。行こうと思えば行けなくも…」

ヒュオ〜〜〜〜

その時、横風が激しくなり、僕のリュックが風に押された。
「行けない!!これ、ヤバイ!」
横風に前髪をなびかせながら、僕は後ろのみんなに伝える。


西岳西峰へ2.jpg

臆病風に吹かれた僕は、よろよろと岩場の上まで戻って考える。
体勢が整ってないとこに強い横風が吹いたら、命の保障はない。
ネットの画像では、おばちゃん達もここを通っていたが、現場に立ってみて危険度を実感する。
この登山を企画した者として、僕がみんなを危険にさらすことは出来ない。

「ここまで来て引き返すのも心苦しいのですが…」
僕が決断をしなければ…。

「わたしはやめておきます」
慎重派ホリーは、すぐに退却を決した。

「……」
「……」
若い川やんとフッチーは、先へ進みたそうな表情だ。

そこへ、今日何度か見掛けているメガネのお兄さんがやってきた。
さっきまで西岳の東峰で座って休んでいたが、そろそろ下山するのだろう。
僕らが道を空けると、メガネ兄さんは岩場へと降りた。

(ここを行く気か!?)
僕らの見守る中、メガネ兄さんはスピードを落とすことなく歩いていく。
僕が横風に吹かれて必死に岩にしがみ付いた場所も、岩を手で掴むこともなく歩いていく。
両側が崖になっている尾根を、平地と同じように歩いていく。

「やっぱ忍者だ…」
僕らは驚嘆するしかない。

「あの人が行ったって事は、普通に行けそうですね」
川やんが呟く。
表情には決意が漲っている。

「行きますか…?行くならお供しますよ」
フッチーも意を決する。

「どうするんですか?田中さん。わたしは絶対に行きません。勇気ある決断を!」
ホリーが決断を迫る。


メガネ兄さんがスイスイ進んだのを見た後では、先に進みたい川やんたちの気持ちも分かる。
ホリーの気持ちもよく分かる。

ここは、東岳の鎖場の時のように、二手に分かれるべきか。
もし僕が先へ進むと、ホリーが一人で股峠まで戻ることになる。
その後の合流地点は西岳の西側になるので、股峠まで戻って迂回路を行くと倍の距離を歩く事になる。
森の中を通るので道に迷う可能性もあり、情報を持っている僕もホリーと戻るべきだろう。

「では、また二手に分かれましょう。僕も戻ります。さっき脚が攣ったので、岩場でまた攣ったら危険だから」
自分の身体能力をわきまえる。
それに、僕のリュックの肩紐が片方ほつれていて、岩場で肩紐が外れたら危険だ。

「んで、川やんもフッチーも、そこまで行ってみて行けそうだったら先へ進んで下さい」
僕が見ている中、川やんが岩場へと降りていく。
忍者には及ばないが、なかなかバランスよく歩いていく。

西岳西峰へ3.jpg

川やんに続き、フッチーも岩場を往く。
川やんとは対照的に亀のように岩にへばり付きながらだが、それだけ慎重に進んでいるという事だ。

「行けそうで〜す!」
川やんが向こうでゴーサインを出した。

「じゃあ、後で合流しよう!くれぐれも気を付けて」
「は〜い!」


川やんとフッチーが、岩の向こうへ降りて見えなくなった。
合流は、1時間以上後になるはずだ。

僕は、先に戻らせたホリーへと走って追い付く。
ちょうど、さっき話していたおじいさん二人も下山していくとこだった。

「若い二人は行ったんですが、僕は険しすぎて行けませんでした…」
僕は恥ずかしそうに、おじいさん達に説明する。

   〜続く〜
ニックネーム SNJ at 16:39| Comment(2) | TrackBack(0) | 登山