たまたまパンク修理をしていた若者と連れ立って、金沢へ向けてのサイクリング。
いや、サイクリングなどという生やさしいもんではなかった。
「雨、痛いっすね〜!」
突き刺さる雨。
押し返してくる向かい風。
カッパのフードは後ろにめくれ、ズボンは完全に濡れ、靴の中にも水が溜まっている。
「まるで台風ですよ、これ!」
「手が、かじかんできました!」
登り坂を終えての待望の下り坂も、危険なのでスピードは出せない。
転ばぬように、ゆっくりと下っていく。
「あ〜、コンタクトにしなきゃ良かった〜」
若者は、雨に顔を攻撃され、目も開けられない状態だ。
僕のメガネも雨で視界が遮られ、ぬぐっても内側にも雨が溜まっていて、視界が確保できない。
鼻の中にも雨が入り込み、鼻水だか雨水だか、もう分からない。
陸橋の下で一旦休憩し、カッパの下に上着を着込む。
陸橋の上の国道8号に沿っていけば金沢市内に辿り着くのだが、どうもバイパスのようになっているようだ。
自転車通行禁止とは書いてないが、歩道はないと書かれている。
「下の道を行きますか?」
「そうですね、上は自動車専用道路かもしれませんね」
下の道を行くと線路に遮られて、線路沿いに走っていったら元の場所に戻ってしまった。
やはり、バイパスを行かねば先に進めない。
仕方なく国道8号に入り、車が水飛沫を上げながら通り過ぎる横を、時速17kmほどで走っていく。
視界は悪く、路面も水が溜まってるため、かなり危険な走行になった。
僕が先行し、後ろから若者が付いてくる。
僕はロードだが若者はMTBなので、同じ力で漕いでいても平均時速で2〜3kmほど僕の方が速い。
離れてしまわぬように後ろを見ながら走る。
後ろに連れがいるだけで、なんとなく心強い。
もし、こんな雨の中のバイパスを一人で走っていたら、心が折れそうだ。
共に走り始めてから20kmくらい走ったろうか。
金沢市内に入ったものの、金沢駅に辿り着けない。
道路の標識は雨で霞んで、近寄らないと何て書いてあるかは不明瞭だ。
「あれ、さっきこっちに行ったら兼六園て書いてあったのに、また国道8号に戻ってきましたよ」
「ていうか、これ孫速道路ですかね?」
軒下で休憩して、携帯で現在位置を確認。
「あっちですね。行きましょう」
でも、確認しても迷う。
「迷いました。さっきの軒下に戻りましょう!」
手がかじかんで携帯のボタンも押せない。
「しっかし寒くなってきましたね〜」
「たぶん明るい内に着くでしょうけど、あとちょっとが分かりませんね」
金沢市内に入ると、他の地名の表記ばかりで金沢駅がどこにあるか分かりにくい。
とりあえず、川と線路に沿って走っていけば、どこかの駅に着くはずだ。
駅が見えてきた!
しかし、それは東金沢駅だった。
だが、もう一息だ。休んではいられない。
自転車を担いで歩道橋を登り、線路の向こうへ渡る。
あとは、この線路に沿っていけば金沢駅だ。
「もうすぐ金沢駅ですよ〜!」
若者が言う。
「そうですか、ようやく着きますね!」
ここまで25kmを二人で走ってきた。
その旅も、もうすぐ終わる。
もっと一緒に走っていたい気もするが、この雨の中はもう走りたくない。
「あっ!ここ渡ったら金沢駅ですよ!」
若者が叫んだ!
「やった〜!!」
ついに金沢駅に到着だ!
二人ともガッツポーズだ。
ギィ〜〜〜
鈍いブレーキ音を立てて、金沢駅前に自転車を停めた。
すぐに荷を降ろし、タオルで顔を拭く。
「ちょっと新しいタオル買ってきますわ」
若者のタオルはもうビチョビチョだった。
しばらくすると若者が戻ってきた。
「どうぞ、手伝ってくれたお礼です」
「あ、ありがとうございます」
僕に温かい缶コーヒーをくれた。
そのコーヒーはとても美味しく感じられた。
「いや〜、パンクの時はどうなることかと思ったけど、着いて良かった〜」
「そうですね、あそこから二人で走って良かったです。心強かったですもん」
「ホントですよ〜。一人だったらあんな道、走れないですよ。いや、走れるだろうけど、かなりへこんでたと思います」
パンク修理を手伝ったせいで30分近くロスしたと思うが、もしあのまま素通りしていたら、あのバイパスでかなり悩みながら走ったろうし、金沢駅に辿り着くのも余計に時間が掛かっていたかもしれない。
たまたま彼がパンクし、僕が追いついてきて出会い、雨も風も強くなって、二人で走り出し、二人で迷い、でも今こうして金沢駅に一緒に立っているのが不思議だ。
「あの…お名前は…?」
「あ、田中と申します」
「私はエビサワといいます」
そこで初めて名乗りあった。
短い時間だったが、こんな大雨の中を走ってきて、なんだか戦友と思えてくる。
「田中さんは、この後はどうするんですか?」
「僕は今から兼六園行こうと思ってましたが、この雨では行けそうもありませんね。時間ももうないし。エビサワさんは?」
「俺は明日、金沢から輪行して東京に帰ります」
「そうですか。僕は明日は兼六園行って、福井の方へ回ろうかと思ってます」
「またどこかで」
「また会えたらよろしく」
そう言って、僕らは別れた。
せっかくなので夕飯でもご一緒したかったが、お互いずぶ濡れなので店に入って席に座る事はできない。
もう一生会う事はないかもしれないが、一生忘れる事もないだろう。
夕闇迫る中、僕は兼六園の場所だけ見ておこうと思って兼六園に向かったが、暗いし雨だしで、やめた。
食料を買って、宿にチェックイン。
部屋に入るとすぐに風呂に入り、リュックから靴から上着から全部洗った。
服を振り回して水を切ったり、ドライヤーで乾かしたり、大忙しだ。
そんなんで夜も更け、気が付くと午前1時過ぎ。
明日も早いから寝なくては。
〜続く〜
2008年05月15日
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