2006年09月03日

電車の中の親子2

夏も終わりが近付く、ある日の朝。
電車に乗ると、席が空いていた。
二人ずつ向かい合って座るボックスタイプの席だ。

ボックス席の窓側にメガネを掛けた母親が座り、その膝上に1歳児を乗せている。
そしてその向かいに6、7歳の女の子が座っていた。
僕は通路側の席に座ることにした。
「すいません、横座っていいですか?」
僕は女の子の隣に座っていいか尋ねた。
「どうぞ」
母親が了解する。

僕が座ろうとすると、
「リュックは上に載せなさい!」
母親がぴしゃりと言い放った。

「あ、すみません、リュック上に載せます」
僕は自分のリュックの事を怒られたのかと思ってそう言ったのだが、母親はこちらを見ていない。
よくよく見ると、6、7歳の娘もリュックを抱えている。
母親は娘を見て言っていたようだ。

「リュック載せましょうか?」
僕はもう一度、その女の子のリュックを網棚に載せるか尋ねたが、女の子も母親も聞いちゃいない。
「……」
僕は無言でリュックを抱えて座席に着き、そのまま寝るつもりで目を閉じた。

電車はまだ停車している。
しばらくすると、僕の膝に打撃が入った。
目を開けると、お婆さんが僕の向かいに座ったとこだった。
何事もなかったので、また目を閉じた。

電車が出発した。
目は閉じているが、意識はあるので物音は聞こえている。
隣の母子の話しが聞こえた。
「おばあちゃん元気だった?」
「うん、元気だったよ」
推測するにどうやら、夏休みで女の子がおばあちゃんの家に泊まりに行っており、母親が1歳児を連れて迎えにきた帰りなのだろう。

僕は少し意識が遠ざかりかけた。
母親が娘に対して何か怒っている。
なかなか厳しい母親のようだ。
娘が何か言う度にぴしゃりと抑え込む。
それでもめげずに娘は話題を変えてはしゃべる。
話の最後は母親がビシッと言って終わる。

「抱っこする〜」
女の子は1歳児を抱っこした。
「ア〜ア〜」
1歳児はグズりだした。
「もう〜、泣かせないでよ」
母親が1歳児を自分の膝の上に戻した。
1歳児は大人しくなった。

その内、女の子がお菓子を取り出して食べ始めたようだ。
すると、母の膝上の1歳児の女の子が、それを見て羨ましくなったのだろう、グズりだした。
「ア〜、ア〜ア」
「だ〜め」
女の子は拒否した。
「アア〜アァ〜ア!」
1歳児は激昂してきた。
「だ〜めッ」
女の子はなおも拒否した
「アアァ〜!ア〜ッ!」
1歳児は泣き出した。

「○×ちゃんはいくつなの?」
「ア〜ッ!」
「O×ちゃんは何歳?」
「アァ〜アッ!」
「○×ちゃんはこれダメなの」
「アアア〜ァ!」
「○×ちゃんは3歳じゃないでしょ?これはダメなの」
「アア〜!アア〜!」

どうやら、女の子はお菓子の対象年齢が3歳以上とかの事を言っているのだろうが、1歳児には通用しない。
母親が懸命にあやしている。
何とか1歳児は大人しくなった。

「あっ」
女の子は、お菓子のゴミを床に落としてしまったようだ。
女の子はゴミを拾おうとしたが、
「後にしなさい」
母親に怒られた。

僕は、その間ずっと目を閉じていたのだが、やがて意識を失った。
ふと気付くと、何かが足に当たっている。
また向かいのお婆さんの打撃かと思って薄目を開けると、女の子が座席の下に潜り込もうとしていた。

「ああ〜、向こうにいっちゃった〜」
ゴミは床を転がっていったのだろう。
「もう〜、後にしなさい」
母親に怒られた。

女の子は座席の下から出てきて席に座ると、前傾姿勢になり、向かいの1歳児の足に頬ずりを始めた。
「○×ちゃ〜ん」
きっと1歳児の事が大好きなのだろう。
僕の中の設定では、女の子はおばあちゃんの家に泊まりに行ってたので、1歳児に会うのが久し振りに違いない。
凛々しい顔立ちの女の子だ。きっと親元を離れて泊まりに行って成長したのに違いない。

「○×ちゃ〜ん、あったか〜い」
何度も足に頬ずりしては、1歳児を撫でたりしている。
「ちょっと抱っこしてて」
母親は荷物を開けるために、1歳児を女の子に渡した。
また女の子は1歳児の抱っこを試みた。

頬ずりの成果だろうか、今度は1歳児はグズらなかった。
「あったか〜い、あったかいよ〜」
クーラーの効いた車内だ。子供には寒いのだろう。
「ママ〜、○×ちゃんあったかいよ〜」
女の子は不器用な抱き方で抱っこしていた。
1歳児はもう泣かない。

電車は駅に停車した。
僕はそんな光景を最後に横目でチラッと見ると、駅に降り立った。
駅の喧騒と、まだ衰えぬ夏の暑さが僕の身体を包んだ。
ニックネーム SNJ at 03:38| Comment(2) | 街角・日常編
この記事へのコメント
また電車内だね。前回もそうだけれど。読んでいるとミニシアターのショートムービーのような雰囲気が浮かぶね。短い話だからではなくて、ウケるための演出がなくて、監督の思うがままにすすむ話やストーリーの独特の色(?)が好き。分かりくいコメントだったね。すまないね。
Posted by しゅう at 2006年09月03日 06:54
最近は電車内くらいしか、外に出てる時間がなくてね。
まぁ、書こうと思っている街中のネタもあるのだが、また後でかな。

旅行記も終わらせないとな…。

書く内容は何でもない出来事なんだけど、文体や登場人物の行動でリズムが出来れば、まぁ良くなるとは思います。
ウソは書かないけど、実は演出だらけですな。
Posted by SNJ at 2006年09月03日 11:17
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