ふと、僕の横に何かが付きまとってくるのが視界に入った。
よく見ると、いつの間にかにミノムシがハンドルに糸をくっ付けたようだ。
ミノムシは、ゆっくりと糸を縮めて這い上がってくる。
何か嫌だ。這い上がってくるのが気色悪い。
ミノムシがハンドルに到達する前に、僕はミノムシの糸を手繰って歩道の木に移してやった。

午前7時過ぎ、西八王子駅を過ぎた。
次は高尾駅だが、高尾駅の手前の歩道が通学する女学生で混んでいた。
そこを自転車で抜けていくのだが、女学生たちは話に夢中で気付いてないのか避けてくれない。
歩道沿いには警備員も立っている。女子校なのだろうか。
たくさんの女学生に囲まれてラッキーなシチュエーションと思いたいとこだが、全然進めなくて困った。
歩道でなくて、車道を走っていれば良かった。歩道には柵があり、車道に下りる切れ目がないのだ。

女学生の列を抜けて高尾駅に到着。
高尾駅北口は、寺社風な木造で趣きのある佇まい。良い駅舎ですね。

高尾駅の先は高尾山口駅に到着。
近くのコンビニで食事がてら休憩。
7時50分、再び出発。
そして甲州街道は、いよいよ上りに入る。
道は、緩やかな勾配からだんだんとキツくなり、自転車を漕ぐのがツラくなってきた。
自転車を降りて押していくが、ここまで50km近く漕いできた脚が痛み始めた。
道にはほとんどの部分で歩道がなく、自転車を押して歩いていると1mほど幅を取るため、車が走ってきた時はとても邪魔になる。
自分が邪魔になってると思うが、脚が痛くて自転車に乗って漕げないのだ。
心肺機能も疲れて低下している。寝不足も堪えているはずだ。
草むらに埋もれるように大型トラックをやり過ごす。甲州街道は大型車の通行も多い。
服には棘のある植物がまとわり付く。
明け方は寒いくらいだったのに、上り始めてすぐに汗が噴き出し、ポタポタと垂れてくる。
ここは『大垂水峠(おおたるみ)』と言う。
その名の通り、汗が大量に垂れてくる。僕の体も、脂肪でたるんで大たるみだ。
歩調と汗の落下が同調し、うつむいた僕は視界にそれらを捉えながら歩いてゆく。
何度もこのまま引き返そうと思った。
引き返せば、このまま下って行けるのだ。
脚も痛いし、この先も上っていくのは無理なんじゃないか?
そう考えつつも、脚は一歩一歩進んでいる。
反対方向からロードレーサーのタイプの自転車に乗った人が、道を颯爽と下ってきた。
この人も道を上ってきたんだろうか?
僕も上りきれば、楽になるのかな?
しかし、後どのくらい上るんだろう?
正直、僕にはヒルクライムは無理だったのだ。
デブいから自重もあるし、荷物も大量だ。
しかも、マウンテンバイクで上っている。車重は17、8kgはあるだろう。
ロードレーサータイプなら、僅か10kgほどだ。
自分が痩せて、荷物を減らして、ロードレーサーにすれば25kgは軽量化できる。
何も知らずに、何の対策も取らずに山を上ろうとした自分が愚か者だった。
普段から運動していないのに、この旅に出る前の週に二日ほどジムに行って、脚で170kgのウェイトを挙げて、この太腿ならイケるはずという気になっていただけなのだ。

歩道があったので、そこで自転車を停めて休んだ。
地図を取り出して見てみると、もうすぐ上りは終わりのようだ。
脚は痛いが、ここまで来たなら上りきるしかない。
僕はまた歩きだした。

そして見えてきた。
峠の頂上が見えてきた。
あの向こうは下っている。
しかし標高392mとは、大して高くもないが疲れたなぁ。
時刻は8時45分。1時間ほど上っていた計算になる。

峠の歩道は、何故か狭かった。
自転車が通れても、僕が通れない。
こんなお出迎えを用意してるとは、なかなかやってくれるぜ。

その狭いとこを抜けて、いよいよ下りと思ったら、今度はぬかるみが僕を襲う。
自転車を押して慎重に進むが、自転車のタイヤが横にズルッと滑った。
危ない。乗っていなくて良かった。
二段構えとは、なかなかのトラップじゃないか。
さすが、大垂水峠の名の通り、水が大量に垂れてるわけだ。
〜続く〜
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