下りが待っていると期待した僕の甘い考えは、間違っていたようだ。
勾配こそ緩やかな2、3%であるが、確実に上っている。
僕は疲れきった脚で、軽いギアにして進んでいく。
大月までは西進していたが、都留からは南下している。
南下しているのに上っている。これじゃ南上だ。
都留市駅で標高467m。
大月駅が358mなので、100m以上は上っている。
もちろん、都留市駅からも上り続ける。
都留市内で、出発から100kmを超えた。
この辺りになると、僕もコンビニに立ち寄って飲み物を補給する事が多くなった。
かなり汗をかいている。
コンビニで若い女性が僕の方を見て笑っていたが、外に出てリュックを降ろすと、肩紐の部分が汗に濡れて乾いたのだろう、塩の結晶ができて白く染まっていた。
そんなに塩分を失っている事がどういう事なのか分からずに、僕はまた自転車に乗って進みだした。
それにしても、お尻が痛い。もう座っているのも嫌になる。
もちろん、脚も痛い。
脚が攣る。
ここは都留(つる)だ。攣って当然なのだ。
だんだんと緩やかな勾配を進み続けるのがツラくなって、僕は自転車を降りた。
(この道はいつまで上り続けるんだ!?)
緩やかとは言え、もう10km以上も上り坂が続いている。
心肺機能にも限界が訪れ、僕は自転車を漕げなくなった。
ここから先は歩いて行くしかない…。
そして、いよいよ体が動かなくなった。
いくら休み休み歩いても、もう体が動かないのだ。
手足が震えて、自転車を押す力すら出ない。
僕は国道沿いの神社に座り込み、筋肉痛の塗り薬を足全体に塗った。
リュックを見ると、やはり汗の塩分で白くなっている。
(これだけ塩分が体から抜けたんなら、体が動かなくなって当然だな…)
思えば、高尾山のコンビニで食べて以来、飲み物しか口にしていない。血糖値も低くなっているはずだ。
以前、一日で150kmの距離を走ったが、その時は途中で仮眠したり食べたりしていた。
今日はここまで100kmちょっとだが、ほとんど食べていないのだ。
これはハンガーノック症状が起きているに違いない。
どこかでエネルギー補給しなければなるまい。
足下を見ると、蟻たちが忙しそうに歩き回っている。
(僕も、まずは歩かない事には先へは進めないな…)
僕は神社の水道で顔を洗って気合を入れて、また歩きだした。
歩いていくと、やがてスーパーを見つけた。
僕は、カロリーメイト、糖分のための甘い物、塩分のためにしょっぱい物、ビタミン系のために野菜ジュース、筋肉の疲労回復のために酢酸ドリンク、牛乳などのタンパク源などを大量に買い込み、一気に補給した。
しばらくスーパーの駐車場で座っていたが、だんだんと体力が回復してきた気がする。
僕はまた自転車に乗って進みだした。お尻が痛い。
ず〜っと上り続けている勾配は、時に7%にもなった。
普段なら上れるはずの勾配が、今の僕には大きな壁だ。
躊躇なく自転車を降りる。

この勾配の向こうは下りになっているように見えるが、7%の勾配を上りきると、待っているのは3%の上り勾配だ。
7%よりは緩やかなので、角度の変わり目で下りに見えていただけなのだ。
こういう錯覚に何度も騙された。
その都度、がっくりする。
期待しなければいいのだが、疲れているのでやはり下りを期待してしまう。

そうして都留市を抜ける頃、ふと顔を上げると坂の向こうに富士山が見えていた。
坂はまだまだ上る。
どうやらこの辺の土地は、富士に向かって上り続けるらしい。
〜続く〜
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