夜、終電間際の電車での帰宅途中。
車内は混んでいたが、一緒に乗っていた友人H氏が下りる駅で、多くの乗客が降りた。
少し空いた車内、僕のすぐ後ろに、酔った年配のおじさんがドアにもたれ掛かって立っているのに気付いた。
見ると、おじさんはかなり酩酊していて、電車が揺れるたびによろめいている。
むしろ、電車の揺れよりもおじさんは揺れている。
直径80cmほどの円を描くようにステップを踏んで、なんとかドアのところに留まっている感じだ。
まるで酔拳の動きだ。
手にはペットボトルの水を持ち、いとしそうに水を眺めてはキャップを開けて飲んでいる。
見る見る間に水は減っていく。
こぼさないかと見ていたが、おじさんは水をしっかりと手に持ち、大事に飲んでいく。
少し飲んではキャップを閉めて胸元にペットボトルを抱きしめ、それを少し見つめ続けるとまた飲む。
その一連の動作は素早く、なかなかよい動きをしている。
駅が近付いた。
電車は減速を始める。
よろめいていたおじさんはバランスを崩した。
おじさんは一歩脚を踏み出し、のけ反りながら踏みとどまろうとする。
もろ、マトリックスのポーズだ。
しかし、電車は尚も減速を続け、ついにおじさんは半回転しながら減速方向に崩れていった。
僕は、転びゆくおじさんの手首をギリギリ掴んだ。
おじさんの前方に居た人もおじさんを掴もうとしたが、僕が掴んだので掴まなかった。
電車が停まった。
なんとかおじさんは転ばずに済んだ。
おじさんの腕を掴んだまま、2秒ほどの間があった。
おじさんは、自分の腕を見て僕が掴んでいるのに気付き、「すみません」と言った。
おじさんは、またドアのポジションに戻った。
電車が発車する。
おじさんは揺れている。
おじさんの前方に位置する人は、またおじさんが突っ込んでこないかと気になるのか、本を読みながらもチラチラとおじさんを見ている。
おじさんは揺れ続ける。
もしかしたら気分も悪いのかもしれないが、そこまで酩酊して帰れるのは、なんだか幸せそうに思えるのだった。
2006年11月30日
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