近い、近いぞ。
顔振峠から一旦登って、そこから少し下ってまた登ったらもう傘杉峠だ。

標高は550m。
峠からの見晴らしは良くない。
前線基地である顔振峠の補給基地みたいなもんだ。
あっ気なく陥落させた。
…とは言っても、峠直前の上り坂で「ハァ〜、フヒェ〜」とか言いながら自転車を漕いで登っていったら、峠の指標の下のベンチで寝転んで休んでいる人がいて、ビックリされた。
僕も、まさかそんなとこに人が寝てるとは思わなかったので、横で急にビクッと人が起き上がった時には焦った。
変な声を聞かれたのも恥ずかしい。誰もいないと思ってたから。
そのまま、「ふぅ〜、着いたァ〜」と独り言を繋いでごまかした。
寝ていた人はライダーだった。
峠の案内看板の横にバイクが停まっている。
ライダーはベンチから起き上がり、バイクの方へ歩いてくる。
僕は目を合わせないように、デジカメの液晶を見ていたが、
「こんにちは〜」
ライダーの方から声を掛けてきた。
「こんにちは。今日はいい天気で良かったですね」
僕も挨拶を返す。
ライダーは長髪の若者だった。
山道のこういう触れ合いは、清々しくて良いのもだ。
僕は気になって尋ねてみた。
「今日はどちらまで行かれるんですか?」
「秩父まで行こうと思ってるんですよ」
僕と同じ目的地である。
「へ〜、僕も秩父まで行こうと思ってるんですが、夕暮れまでに着けないかもしれません」
「もう日が傾いてきてますもんね」
まだ午後2時であったが、山の東側は日陰になってしまっている。
日陰に入ると気温も下がるし、風も冷たい。
この先、無事に走れるのだろうか。
まぁ万が一日が暮れても、奥武蔵グリーンラインから下る道はたくさんあるので、そこから帰ってしまえばいいだろう。
その場合は敵本陣である秩父には辿り着けないので、敗戦となる。
途中で山を下りたら、僕は落ち武者だ。
一足先に秩父に向かうライダーを見送ると、僕もライダーの後を追って走り出した。
バイクのエンジン音はどんどん遠ざかり、やがて鳥の鳴き声と風の音しか聞こえなくなった。
次の峠は、飯盛峠780m。
地図で見るとけっこう距離がある。
標高差もあるし、心して挑もう。

少し登ると、東側の眺望が開けた。
川越市やさいたま市の方向だ。
ライダーとの出会いや、こういう景色のお蔭で、登っていく気力も湧いてくる。
〜続く〜
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