その先は下っているようだ。
左手に見えた県民の森の駐車場に、ショートカットのつもりで入り込んでしまった。
しかし、駐車場内は、車止めの段差ばかりでまともに走れない。
ガッタンがッタン走りながら駐車場を抜けて左に90度曲がると、午後4時5分、本日37kmの距離を走ってきて、やっとクライマックスのダウンヒルが始まった。
見る見る内にスピードが出ていく。
(ひゃっほ〜!!)
心の中で叫びながら下っていくと突然、正面からの風圧で減速させられてしまった。
ビュォォォォォ〜ッ!
目も開けてられないほどの物凄い強風が襲ってくる。
何とか目を開けると、目の前は木が枯れて開けており、そこから風がなだれ込んできているのだった。
と、同時に夕日も正面に見える。
美しい。
しかし、
(寒〜ッ!!)
とっとと林の中の道へと下っていった。
いくらか風は和らいだものの、それでもまだ強い。
そして冷たい。
(ダ、ダメだ…。凍える…)
ダウンヒルは気分良いのだが、あまりの寒さに僕は自転車を止めた。
そして、汗で濡れて冷たくなった服を着替えることにした。
服を脱いで、上半身裸のまま夕日に照らされる。
風は木々に遮られて、自転車に乗っていなければそんなに寒くはない。
(どうだ、コラ!風よ吹いてみろ!)
しばらく裸のまま夕日を見ていたが、車が走ってくる音がしたので慌てて服を着る。
だが車は来ない。
またしても風が木々を通り抜ける音だった。
(ビックリさせやがって…)
今度は重ね着をし、長ズボンも履いて下山フォームにチェンジ。
また下りに突入した。
時速40kmを超えながら、一気に下っていく。
そこまでスピードが出ると、やっぱり寒い。
「寒い寒い寒い寒い…寒いよォ〜」
呪文のように唱えながら下っていく。
路面には暴走禁止の凹凸が付いており、油断すると転倒する。
路肩を走っていれば大丈夫だが、コーナリングラインは限定される。
ヒュ〜ルルルルル、ヒュゥ〜ルルルルルゥ〜
風が森を通り抜ける音がする。
コーナーで減速すると聞こえなくなるが、スピードが出るとまた聞こえてくる。
ヒュ〜ルルルルル〜、ヒュ〜ルルルルル〜
まるで猫バスが走っているようだ。
もしくは打ち上げ花火の音。
そんな体験はないが、焼夷弾が落ちてくる音にも思える。
ヒュ〜ルルルル、ヒュ〜ルルル、ヒュ〜ルルルルル
ガタガタン!ガタガタン!
風の音と、路面の段差の音しか聞こえてこない。
時速40kmで景色が流れていくのと相まって、何が何だか分からなくなるが、決して45kmは超えないようにした。
ヒュ〜ルルル、ヒュ〜ルルル、ヒュ〜ルルル
ガタガタン!ガタガタン!
(持つのか?この折り畳み自転車…)
少し心配になるが、段差さえ気を付ければ大丈夫だろう。

眺望が開けて夕日が見えるが、開けた分だけ風も強まる。
ヒュ〜ルルル、ヒュ〜ルルル、ヒュ〜ルルル
ガタガタン!ガタガタン!
風の音は、弓矢の音。
なかなか激しい敵方の攻撃だ。
路面の凹凸と、道路を横切る排水溝は馬防柵と受け止めよう。
騎馬は馬防柵を乗り越え、牙を剥く。止まってはならない。

いくつものつづら折れを下りてきた。

やがて民家が現れ始めるが、下りは続く。
下り始めて20分以上経ち、10kmは走っている。
ここは秩父の隣り、横瀬町。敵本陣は目の前である。

そして河原まで下りてくると、下りはなくなった。
(敵本陣はどこだ?)
ここで僕は迷子になった。

地元の中学生の後をついて、河原沿いのよく分からない道を行く。
(おのれ、こんなとこに抜け道が)
迷うこと15分、ついに敵本陣を発見。

『武甲温泉』
ここが目指す場所だ。
僕は愛馬(自転車)から飛び降りると、脚を休める間もなく敵本陣に突入した。
「いざ、参る!」
〜続く〜
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「武甲温泉」
すごい名前だけど、地名なのかな?大文字草という植物に「武甲の輝」という品種があります。
敵陣はいかに?
武甲山は、セメント採取のために日々削られていく山です。
高さ1300mほどで削れた山肌なので、遠くからでもすぐ分かる。秩父のシンボルみたいなもんだ。