2007年01月17日

自転車奇行・横浜編3

国道1号で川崎市内を走り抜けて鶴見川を渡ると、そこから横浜市である。
もう横浜市に入ったと安心した僕を、横浜の坂道が待ち構えていた。

鶴見区に入ってすぐ、長い上り坂があった。
ギアを1速に落としても、なかなか上っていかない。
僕の横を車が追い越してゆく。
(抜いてけよ。惨めなオイラを抜いてくがいいさ)

車道脇を走っていたので、自転車を降りて押すのも憚られた。
ここまで、何度か上り坂はあったが、ここに来て最上級の坂道の登場だ。
(上ってやる、上ってやる…)

歩道内では、カップルが手を繋いで歩いている。
とても楽しそうに話しながら。
対照に、僕は苦悶の表情だったはずだ。
(楽しそうでいいね。僕も楽しいよ、きっと)

(うおぉぉぉ!)
シャカシャカシャカシャカ

やけっぱちに漕ぐ。
カップルとすれ違ったお蔭で力が出て、自転車を降りずに坂を上り切った。

その後も何度かアップダウンを繰り返しながら、子安駅付近まで来た。
夕方5時半を過ぎ、辺りはすでに暗くなってきている。

休憩がてら友人に電話する。
「今、自転車で横浜まで走ってる」と伝えると、「おお!『漢』と書いて『おとこ』だね」と励まされる。

走り出す前に考えていたことがあった。

『自分は頑張ったことがない。
頑張ったつもりだけで、きっと本気を出したことがない。
なぜ本気にならないかと言えば、自分の力が通用しなかったショックは、本気を出した時ほど大きくなるからだ。

本気を出さない。
なぜ?
自分に言い訳ができるから。

それは、結果から逃げているだけ。
そろそろ頑張ってみよう。

それが、自転車を使った変な旅であっても、シンプルだからこそ自分の本気度が分かるだろう。
ツラい時、本当に追い込まれた時、心の叫びがあるはずだ。
その時何か、気持ちの盛り上がりを叫んでみればいい』

そうして思いついたセリフは、
「俺は男だ!」
だった。
すいぶんと掻い摘んだセリフだ。

叫ぶなら、横浜到着直前がいいだろう。
(なかなか盛り上がってきたぞ)
一人で勝手にシナリオを思い描き、盛り上がる。

そんな気分で自転車を漕ぎ出した。
しかし、鶴見の坂で脚がやられていたのだろう、東神奈川駅に向けての上り坂が全く登れない。
自転車に跨ったままバランスを崩して転びそうになったが、歩道の柵を掴んで持ちこたえた。
危ない、気持ちは盛り上がっても、身体は疲れている。

自転車を押して坂を上ると、また自転車に乗って走り出す。
ふらふらと、東神奈川駅を過ぎた。
(こんだけ疲れてんだから、そろそろ叫ぶか。そろそろ横浜駅に着いてしまう)
周りを見回し人がいないのを確かめると、大きく息を吸い込んでからついに叫んだ!

「…俺は男だ…」

なんとも小声であった…。
(いかん、あまり盛り上がらなかったな)
次のシナリオを考える。

『横浜駅に着いたら自転車から飛び降りて、そのまま自転車を横倒しにして、ガッツポーズをしながら「よっしゃ!着いた〜!」と叫ぶ』

(これだ!今度こそ、バッチリ決めるぞ)
ゴールまでもう一息。
脚はもう限界だが、気持ちはまだ萎えていない。
細い路地を入っていくと、見覚えのある建物が見えた。

横浜駅1010.jpg

(あれ?ここ、横浜駅じゃん)
午後6時、出発から4時間半を費やし横浜駅西口に到着。
思ってたより早く着いた。
千葉の柏から横浜駅まで、65kmくらいだったと思う。

僕は駅前に自転車をそっと停めた。
午後6時。駅は人で溢れていた。
とてもじゃないけど、この人込みの中で叫ぶことなど出来ない。

僕は、ガッツポーズ代わりにペットボトルを持った手を掲げ、伸びをするように無言で両手を挙げた。
(これでも一応、両手のガッツポーズだ)

手を挙げたまま、駅ビルの中を練り歩く。
こんなに気分良く横浜駅を歩いたことはない。
達成感のなせる業だ。

また自転車の元に戻ってくると、突然、脚が痙攣し始めた。
緊張の糸が切れてしまったのだろう、僕はそのまま地面に座り込んでしまった。
(ダメだ、もう立てないや…)

座り込んだまま、横浜駅を見上げた。
僕がここに着いた瞬間を、横浜駅だけが見ていてくれた。
ニックネーム SNJ at 02:52| Comment(2) | TrackBack(0) | 自転車奇行2007
この記事へのコメント
達成感が伝わってくるけれど、知らない人がみたら怪しい人物だったに違いない。
「自己満足」良い言葉として使われることはないのだけれども大切なことだよね。
Posted by しゅう at 2007年01月17日 07:31
怪しいね。荷物も多かったから怪しすぎたね。

まぁかなり怪しかったけど、横浜駅を歩いている人は、僕が柏から走ってきたとは思わないだろうね。

誰かに言いたかったもんです。
「柏から自転車で来ました〜」と。
Posted by SNJ at 2007年01月18日 01:44
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