山頂からさらに奥に向かって長瀞アルプスという登山道を行くか、普通に登ってきた道を下るかの選択だ。
長瀞アルプスルートは、最初は階段を下りないといけないし、その先も自転車で走れるか分からない。
時刻も午後3時半になるし、道に迷ったら日が暮れてしまう。
同じ道を戻るのは面白味がないが、たまには登ってきた道を下るのもいいだろう。
あの砂利道を下るのは、かえって面白そうだ。
というわけで、登ってきたルートを戻る事にした。
戻ろうと思ったら、山頂で話した夫婦が登山道を下りていくとこに出くわした。
「あ、どうも」
僕は挨拶した。
「帰るのかい?」
「ええ、登りは大変でしたが、下りは楽です。一回も漕がなくても戻れますね」
「帰り道はこっちでいいんだよね?」
「そうですよ、このまま下りてって右に曲がれば大丈夫です」
「今日はどこから来たの?」
「秩父から走ってきました」
「秩父の人?」
「いや、秩父までは西武線で来たんですよ、池袋から」
「へ〜、じゃあまた秩父に戻るのかい?」
「いや、北上して寄居の方に抜けようかと思います。最初は、尾根沿いに長瀞アルプスを通って野上駅に出ようと思ってたんですけど、日も暮れそうなのでやめました」
「そうだね、秩父へは上りになってるから、寄居に行って東武東上線で帰る方が楽だろうね」
夫婦は秩父方面の人だろう。話し方に秩父訛りがある。
僕が子供の頃は、田舎である秩父に休みごとに行っていたので、懐かしい訛りだ。
そんな地元の人と、地元の駅名を出して話すのも面白い。
「それじゃ、お先に」
僕は夫婦と別れると、砂利道を下り始めた。
最初は恐る恐る下っていたが、段々と慣れてくる。
しかし、慣れたからといって調子に乗ってはいけない。
路面は砂利道とは言っても、大きな石もゴロゴロしている。
尖った石を踏めばパンクしかねない。

さらに、乗っているのは折り畳み自転車である。
衝撃で折り畳み部分が壊れたら転倒確実だ。
衝撃は、腰を浮かせて肘と膝で吸収しないといけない。
スピードが出過ぎても危険だ。
登るのに、散々苦労した急勾配だ。どんどんスピードが出る。
ブレーキを掛けても、砂利ごと滑って進んでしまい止まらないのだ。
舗装路ではあり得ないような急コーナーになっているので、曲がりきれなければ急斜面に飛び出してしまう。
大きなデコボコを避ける。
例えば一個のデコボコを左に避けると、次のデコボコがあって、右には大きな石があって行けないのでまた左に避ける。
そうやってコース取りが限定されてしまい、また大きなデコボコがあって、左に。
すると、道からはみ出して崖下に落ちてしまいそうになる。
なかなか怖い道だ。
怖いが、面白い。
今まで下ったどの坂道より、面白味がある。
登山道だし、歩いて下山している人も多いので、追い抜くときは一旦2kmくらいに減速して「すいません、通りま〜す」と言って抜いていく。
若いカップルがいて、男の方は大きな三脚を担いで下山している。
なかなか大変そうだ。
女の方も、踵の高い靴で下山している。
なかなか大変そうだ。
「すいませ〜ん」
と横を通っていくと、男の方が僕の自転車を見て「スゲェ」と言っていた。
僕からすると、踵の高い靴でこの道を下りるあんたの彼女の方がすごく思えるのだが。
そうして、長々と登った道を一気に下り終えた。
山頂からの距離は3kmちょいだった。
登りは45分くらい掛かったが、下りは10分ほどだろう。

宝登山を後にする。
もう日も傾いている。
あの森の向こうはゴルフ場が広がっている。
バイバイ、宝登山。
〜続く〜
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