勾配15%以上ありそうな坂を上る。
もちろん坂の途中で足を付いた。
500mほど歩いて、かんぽの宿寄居に到着。
坂の途中で僕を追い抜いていった四駆の自動車に乗った若者4人も、同じく入浴目的のようだ。
入浴料は800円。
風呂場は6階なので、若者4人と一緒にエレベーターで6階に向かう。
彼らは車、こちらは自転車だと思うと、何だか勝った気になってくる。

脱衣所の窓から、先ほど渡ってきた橋が下に見える。
この宿までは50m分くらいしか上ってないが、ここは6階なので標高と合わせてかなり高く見える。
風呂場に入ると、先ほどの若者4人が体を洗っている。
他にも客がいて、洗い場はほぼ塞がっていた。
一つだけ空いていた端っこの洗い場で汗を流す。
暖かいお湯が心地良い。
(極楽、極楽〜♪)
もう上り坂のことは忘れた。
後は電車で帰るだけだ。
洗い終わって風呂に浸かる。
何だか体がヌルヌルする。
一瞬、石鹸を洗い流し忘れたのかと思って焦って立ち上がったが、ここの泉質によるものだった。
湯は透明度が高く、匂いもほとんどしないので、そんなに温泉っぽくないかと思ったが間違いだった。
しばらく湯に浸けてから手を出すと、ヌルヌルスベスベだ。
去年の夏に行った二つの温泉も、湯の色と匂いは凄かったが、ここまでスベスベではなかった。
(何だか溶けていくようだ〜)
次に露天に入る。
風は冷たいが、湯は適温だ。
露天からは周りの山々が見える。
そのまま、暮れゆく山並みを見ていた。
再び内湯に。今度は泡風呂だ。
泡風呂は温泉ではなく、ただのお湯と書いてあった。
泡の勢いも大したことなく物足りないが、すでに30分以上温泉に浸かっていたのでのぼせている。
立ち眩みながら風呂場から出たが、ここの泉質は湯冷めしにくいのが特徴らしく、しばらくクラクラしていた。
かんぽの宿を出ると、もう真っ暗だった。時刻は6時少し前。
急坂を一気に下るが、全然寒くない。薄着なのに。
さすが湯冷めしにくい泉質だ。
波久礼(はぐれ)という駅に着く。
隣りの寄居駅から東武東上線で帰るのが時間的には早いのだが、都内近くを通っていくと帰宅ラッシュにぶつかる。
混んだ電車内に自転車を持ち込むのはかなり迷惑になるので、秩父鉄道で埼玉県の北部を通っていく事にした。
駅の待合室で夕食代わりのカロリーメイトを食べて電車を待つ。
30分後、3両編成の秩父鉄道がやってきた。
子供の時以来の乗車だ。懐かしい。
乗車して、自転車を手擦りに括り付けて空いてる席に座った。
埼玉県北部を西から東へ熊谷市、行田市と通っていく内に僕は少しまどろみ、1時間後、羽生駅に着いた。
途中、僕の隣りに座った女子高生二人の会話を盗み聞きしていたが、面白かった。
最初は「カレシ」の話をしていたが、一人が新しい香水を制服の袖口に付けたらしく、袖の匂いを嗅いでは、「よくね?これ、よくね?」と言っている。
ス〜ハ〜
「ハァ〜、マジいいわぁ〜」
ス〜ハ〜
「マジよくね?よくね?」
何だか北関東訛りだ。
さっきまでは周りは秩父訛りだったのだが、今は北関東の訛りを聞いている。
少しだけ旅をしてるという実感が湧いてきた。
「明日のお昼、何食べる?」
「え〜、どうしよっかな〜?最近、唐揚げにハマってんだよね」
「唐揚げチョー美味しいよね」
「唐揚げにしよっかな〜。ヤベ〜、楽しみになってきた」
何だか、明日のお昼に何を食べるかで盛り上がっている。まだ前日の夜だ。
僕は目を閉じながら、女子高生たちの会話に笑いそうになった。
羽生駅からは東武伊勢崎線に乗り換える。
伊勢崎線で南に向かい、春日部駅で東武野田線に乗り換えて東に向かう。
これでやっと地元の千葉県に戻ってきた。
流山おおたかの森駅で野田線を降り、自転車を組み立てる。
午後9時。あとは自宅まで20分ほど走ればいい。
(遠回りしたから時間も電車賃もかかったな〜)
しかも、2千円分残ってたパスネットをどこかで落とした。
走っていると、自転車がギシギシ軋む。
やはり、砂利道の下山が負担だったのだろう。
僕の肘も痛いし、手に力が入らない。
ショックを和らげるのに肘を使ったし、ガタガタの道だったので握力も使った。
さらに、自転車を持ち上げて駅構内を移動したので、腕全体が疲れている。
脚はまだ大丈夫そうだ。
距離は48kmしか走っていないし。
だが、距離は短かったが、中身は充実していた。
一日であんなに多くの人と話した事はない。
(登山もいいなぁ)
そう思えた一日だった。
〜宝登山編・完〜
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