その日が仕事休みだった。
(行くしかないな。ボヤボヤしてると、桜が散っちまうぜ)
僕は自転車を西武池袋線に持ち込み、埼玉県の飯能駅に向かった。
すでに朝8時半を過ぎているが、通勤ラッシュも終わっているし、都内とは逆に向かうので車内は空いている。
飯能駅に着くと、自転車を組み立てて出発。
去年の年末に奥武蔵グリーンラインを走った時もこの駅から走り始めたが、あの時は初っ端から通りすがりのおじさんに怒られたんだっけ。
今日は、怒られないように注意しよう。
時刻は午前10時半。
今日は前回の水戸への旅路と違って、取り立てて急ぐような計画ではないので、のんびりと行こう。
飯能駅から北に向かうと、だんだんと標高が上がっていく。
突き当たったT字路を東に向かって緩やかな坂を上っていくと、やがて宮沢湖への分岐に当たる。
僕はそこを西へ、宮沢湖に向かって曲がっていった。
宮沢湖は周囲3kmほどの小さな湖だ。
湖畔には、小さな遊園施設や動物園、カートなどレジャー施設が揃っている。

湖の周回道路には、SLの形をした乗り物が走っている。
湖岸には釣り人も多い。
僕は湖の南岸に沿って走っていった。

春を感じさせる緑が湖を囲っているが、桜は咲いてない。
桜の木は、湖の東岸に数本ある程度だ。
(てっきり、桜が満開かと思ってたぜ)

湖の西側はオフロードだ。
さっそくキツイ上り坂が待ち構える。
もちろん、さっそく自転車を降りた。

坂を上ると、湖を見下ろせる丘に出る。
芝生の生え揃った丘で、シートを広げて飲み食いしている団体さんや、犬と遊ぶ家族連れなどで賑わっている。

丘を過ぎると下り坂になって、やがて湖の北岸に到達する。
そして湖は、ほぼ一周となる。
ここからは、さらに北へ進路を取り、森の中へと入っていく。
森の中の林道は、段々と標高を上げてゆく。
この森の南北にはゴルフ場が広がっており、木々の隙間からゴルフをプレーする人々が見える。
彼らはまさか、そんな木々の隙間から自転車に乗った変な人が覗いているとは思っていないだろう。

ゴルフ場のフェンスに囲まれる。
これならボールが飛んできても安心だ。
熊が出ても安心だ。出ないけど。
安心だが、勾配がキツすぎて安心できない。
動悸が激しすぎである。
のんびりサイクリングも、ここに来てツラくなってきた。

自転車では上れないような木の階段。
降りて押そうと思ったら、地面がよく滑る土質でなかなか上れない。
(登山靴があれば…)
乗っているのは、20インチの折り畳み自転車。
一応、サスペンションは付いているので多少のショックは大丈夫だが、僕に段差を越えて走るテクニックはない。

そうして、汗だくになって高麗(こま)峠に到達。
標高は177m。
飯能駅が100mほどなので大して上ってはいないが、激しいアップダウンで疲れた。
桜見てないし…。
ここからは、日高市内の巾着田(きんちゃくだ)と言う場所に向かう。
今回のメインである。
桜はそこにあるのだ。

『巾着田 1.0km』
立て札にはそう記されている。
ここからは下りだし、とっとと行きますか。
〜続く〜
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