岩の陰に、尺八を吹いている人がいた。
僕はしばらく尺八の音を聴きながら、巾着田やその向こうの風景を眺めていた。
(こういうとこでハーモニカを吹くのもいいな…)

神社の裏手から、山頂に延びる道がある。
僕は自転車で途中まで登ったが、あまりにも岩場なので神社の横に自転車を停め、徒歩で登ることにした。
山頂から下りてきた家族の子供が僕の自転車を見て、「自転車だ、自転車だ〜」と叫んでいる。
僕は「そうだよ、自転車だよ」と言ったが、子供に無視された。

山頂へと続く岩場。
岩場に手を掛け、体を持ち上げる。
足場を見つけてさらに上に登る。
自分の目の前は岩壁で、背後には空間がある。
久しぶりに味わう感覚だ。
子供の頃は石垣をスイスイ登ったりしていたが、今は自重があるので怖い。
木の根を掴んで登る。
木の根が千切れそうで怖い。
子供も老人もここを登り下りしていたので、そんなに大変ではないはずだが、僕には怖かった。

岩場を登り終えると山頂だ。
先ほどの神社のとこより見晴らしは良くないが、神社とは逆側の眺望がある。
東松山市の方向だろう。その奥は栃木県の日光方面の山々かな。
ともあれ、日和田山305m、登頂完了だ。
山頂から自転車のとこに戻ると、今度は日和田山の裏手に回った。
日和田山から続く物見山(ものみやま)という山に向かうためだ。
待望の下りだったが、道は獣道みたいで細い。
結局、歩いて押していくしかない。

自転車に乗っても、右側が急斜面で左が崖という道では、ペダルを漕ぐことも出来ない。
右の斜面にペダルが当たってしまうのだ。
それでもたまに乗って下りてみる。
最初は怖かったが、木の階段や岩の段差も自転車で下りていけるようになった。
高麗峠からの下りでは怖くて出来なかったことが、今は出来る。
成長だ。
慣れか。
分岐を左に曲がって木の階段をスピーディーに下りていくと、登ってくる人がいたので自転車を降りて道を空ける。
ついでに聞いてみた。
「こんにちは、物見山に向かうのはこの道であってますか?」
「物見山?物見山はあっちだよ。この道は下りて行っちゃうよ」
どうやら僕は道を間違えた。
「では、あれが物見山ですか?」
「あれは違うよ。物見山の前に高指山(たかざすやま)ってのがあって、そのさらに向こうだよ。あの電波塔の向こう」
そういえば、日和田山と物見山の間にも高指山があったのを忘れていた。
小さい地図には高指山の名が載っていないのだ。
僕は意気揚々と下ってきた木の階段を、自転車を押して引き返していった。
〜続く〜
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