いろは坂ほどの勾配もない直線的な道だが、時速は40km以上でている。
いろは坂では車に追い付く勢いの我々だったが、ここではこちらが40km以上で走っていても、車には抜かれていく。
前方に路駐している車が見えた。
その車の横を通り過ぎる時、猿が見えた。
車の陰に猿がいたのだが、猿はこちらを見てビクッっとして飛び退いた。
バイクや車ならエンジン音もするが、突然、音もなく自転車でシャーッと横を通り過ぎたのでビックリしたのだろう。
このまま国道120号を東に下れば日光に辿り着くが、我々は交差点を南に曲がった。
向かう先は足尾町。
足尾銅山で有名な町だ。

その足尾町に抜けるには、山を登らなければいけない。
山を登ると言っても、中腹のトンネルを通り抜ければいいので、登る標高は150m程度だ。
問題は、その先のトンネル。
『日足(にっそく)トンネル』といって、長さが2765mもある。
登坂して疲れた状態で空気の悪いトンネルに入れば、呼吸もかなり苦しいに違いない。
だが、山を登ってトンネルを抜けない限り、足尾町には行けない。
トンネルをやめて、その上の峠を越える方法もあるが、登る標高は400mに増える。
我々はトンネルに向かって、ゆっくりと坂を登り始めた。
勾配が段々とキツくなる。
僕は今まで何度か自転車で山を登っているので、このくらいなら大丈夫だが、キューピーさんは初めてのヒルクライムだ。
QP「先に行っちゃっていいですよ」
僕「まぁ、休み休み行きましょう」

勾配のキツイ橋の辺りを登ってくるキューピーさん。
かなりヘロヘロになっている。
僕も大汗をかいている。

山の新緑も鮮やかだ。
こういう景色を見ながら、気を紛らわせないと登ってられない。
もう少しでトンネルだ。
トンネル前に着く。
歩道はあるが、『トンネル内工事中 歩行者通行止』の看板がある。
もし、途中で引き返すことになったどうしよう?
だが、進まないことには始まらない。
息を整えると、僕は防塵のためにサングラスとマスクをした。
キューピーさんもマスクを装着。
ゴォォォン、ゴゴォォォン、ゴゴゴゴォォン
トンネルの中には轟音が響いている。
通行する車や、排気のための換気扇の音が反響しているのだろう。
僕「凄い音がしてますけど…、行きましょうか」
QP「行くしかないですねェ」
我々はトンネルに飲み込まれていった。
僕はサングラスをしているので、かなり暗く見える。
しかもマスクをしているので、呼吸でサングラスが曇る。
暗いし曇ってるしで、ほとんど何も見えなくなる。

そして、自転車で走る歩道の幅はとても狭く、1mもない。
油断すると、ハンドルを壁にぶつけてしまう。
それでも、車道を走ることは出来ない。
大型トラックが、80kmくらいで走ってくるのだ。
トラックの巻き起こす風圧で、自転車はよろめく。
壁にぶつかるのはまだいいが、車道に落ちたら大変なことになる。
こんな状態が約3kmも続くと思うと、気が遠くなる。
実際、マスクのせいで酸素不足になって気が遠くなっている。
『←680m 2085m→』
トンネル内には、何百メートルかごとに出口までの距離が表示されている。
かなり走っても、戻った方が出口に近い状態だ。
どんどん気が遠くなってくる。
(ああ〜、もう、見えない!)
僕はやがて、サングラスを外した。
ときどき後ろを振り返ってみると、40mくらい後方でライトが点滅している。
キューピーさんの自転車のライトだ。
(よし、ちゃんと来てるな)
トンネルの中は、少しだけ上り坂になっている。勾配1%もないかもしれない。
これが下り勾配になったら、もう上り坂は完全に終わりだ。
『←1380m 1385m→』
勾配は上りのままだが、トンネルの真ん中を越えた。
(これで半分!もう戻る方が遠くなった)
さらに進むと、歩道を遮るゴミがあった。
ゴミをどけて進む。
広い場所があったので、キューピーさんを待ちつつ休憩。
先ほどのゴミに引っ掛かってなければという不安もあった。

しばらく待つと、キューピーさんのライトが近付いてきた。
僕「いや〜、空気悪いですね〜。大丈夫ですか〜?」
QP「ハァ〜、苦しい〜。苦しいですねェ」
立ち止まって休憩していたいが、ここは空気が悪いので長居するほど苦しくなる。
先を急がねばならない。
また自転車を漕ぎ出す。
狭い歩道を、地味にスピードも出せずに走っていく。
出口までの距離が減っていくのが、とても救いだ。
前方で勾配が変わっているのが見えた。
(あそこから下りになっているな)
マスクのせいで気を失いそうになりながらも、やっと下り勾配になった。
時速も5kmほど早くなる。
(少し楽になったな〜)
その時、背後から叫び声が聞こえた。
〜続く〜
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