僕は飛行機が苦手だ。
何が苦手かって、空を飛んでいるのが苦手なのだ。
落ちるのはもちろん、高速で飛んでいるのも怖い。
新幹線の4倍の速さだ。
昔、青森旅行の際、青森空港から羽田空港まで飛行機に乗った。
その時、途中で乱気流に遭遇して怖い思いをした。
乱気流の中で飛行袖が急降下したのだろう、子供が泣き出すほどの無重力を数秒間感じた。
まるでジェットコースターだ。
それ以来、飛行機は苦手である。
だが今回は、ベトナムに行くにあたって飛行機に乗らざるを得ない。
なんとか快適なフライトといきたいもんだ。
家族6人で成田空港に着いたのは、飛行機の出発の4時間前。
早過ぎる到着だ。
荷物を預け入れした後、父はベトナムに行かないので一足先に帰宅。
僕と母と妹夫婦と姪っ子の5人で、出発まで2時間半待ちだ。
僕は一人でぶらりと空港内を散策。
空港内には店がいっぱい。
当たり前だが外国人も多い。
僕は外国語が分からないので、外国人がいっぱいいると不安になってくる。

寒風の中、空港の屋上から飛び立つ飛行機を見る。
次々に飛行機が空へと飛び立っていく。
(僕ももうすぐ機上の人となるんだ)
いよいよ海外に旅立つんだ、という実感が湧いてくる。
待っていても暇なので、早めにベトナムへの出発ゲートへ向かう。
そこでも数十分待って、やっと搭乗開始。
母と妹夫婦と姪っ子が前の座席、僕はその後ろの席に座った。
僕の隣りには、間ひとつ空けて商社マン風の年配のおじさんが座っていた。
新聞を広げ、飛行機にも慣れている感じだ。
午後6時過ぎ、JALの機体が動き出す。
夜のとばりが降りた滑走路に、ずらりと並んだ誘導灯が道を作る。
飛行機は何度も方向を変えながら、ゆっくりと地面を走って長い滑走路へ向かう。
そして轟音を上げながら一気に加速すると、飛行機は大地を離した。
けっこうな急角度で空へと昇り、みるみる内に夜景が小さくなっていく。
僕の座席は真ん中辺なので、窓側の席の人たちの隙間から外を覗いている。
離陸後、機内サービスのドリンクが運ばれてきた。
僕はトマトジュースを頼んだ。
こんなとこでトマトジュースを飲めるとは快適だ。
妹はビールを頼んで半分だけ飲み、残りは僕が飲んだ。
飛行機の中で酒を飲んだのは初めてだ。快適快適。
離陸から50分かからない内に、和歌山県上空へ。
去年の春に車で和歌山県に行った時はずいぶん遠いと思ったが、飛行機だとすぐだ。
機内サービスの夕食が運ばれてきた。
僕は牛玉丼を頼んだ。
前の座席の背もたれには液晶テレビが付いていて、映画や音楽、ゲームを楽しめるし、なかなか愉快なフライトになりそうだ。
ついでに日本酒も頼んだ。
備え付けの液晶テレビで、『その時歴史が動いた』や、ジャッキー・チェン主演映画『ラッシュアワー3』を観る。
日本酒を飲みながらテレビを観るなんて、ちょっと空の旅を満喫してるかな。
機内モニターには『時速800km 外気温−43℃』の表示が出ている。

1歳児の姪っ子が飽きたのか、前の座席から後ろを覗きこんできた。
僕を見付けてニッコリ笑う。
僕の横に座っているおじさんの読んでる新聞をも覗き込む。
おじさんは姪っ子と視線を合わせないようにしている。
姪っ子がティーカップを握って覗きこんできた。
ティーカップを振り回す。
おじさんは見ないようにしている。
姪っ子がティーカップを手放した。
カップはおじさんの足を掠めて落ちた。
「すみません」
僕がおじさんに謝ってカップを拾う。
おじさんは気にしないフリをしている。
僕は冷や冷やもんだ。
機内アナウンスが流れた。
『乱気流です。乗務員は着席して下さい』
(えっ!?乱気流!?)
数年前の記憶が甦る。
だが少し揺れただけで、急降下などはしなかった。
良かった良かった。
少しうウトウトしてきた。
酔いが回ってきたかな?
ラッシュアワー3を観ていたが、寝たり起きたりしてる内にいつの間にかエンディングになっていた。
ちょっと気分を変えようと、ヘッドホンを外した。
その時だった。
耳鳴りがした。
耳鳴りで音がよく聞こえない。
4時間以上ずっとヘッドホンをしていたからかと思ったが、どうも違うようだ。
音が聞こえなくなった後は、目が見えなくなってきた。
呼吸も苦しい。
(これは…酔い過ぎたかな?)
外気温は−40℃以下なのに、なんだか暑くなってきた。
汗をかいていたので、上着を脱ぐ。
そしたら今度は寒くなってきた。
上着を着ても、寒くて寒くて仕方ない。
…と思ってたら、また暑い。
いや、寒い。体温調整もうまく出来てないようだ。
暑いのか寒いのか分からないが、汗をかいている。
冷や汗だ。
目眩と耳鳴りで、吐き気を催してきた。
頭の中がグルグル回っている。
平行感覚も失われた。
いや、飛行機が少し傾いただけかもしれない。
脈拍も遅くなり弱々しい。
心臓が止まりそうだ。
(あれ?…これ、ヤバいんじゃないの…?)
(乗務員に水を頼もう…)
手元のボタンで呼べるが、目がよく見えない。
仕方なく立ち上がって、乗務員に水を貰いに歩いていった。
動かないと心臓が止まりそうだった。
「すみません、水を下さい…」
耳鳴りで自分の声も遠くに聞こえる。
乗務員が水を注いでる間も、視界が真っ暗になっていく。
(血圧が低くなってて、頭に血が来てないんだな…)
それでも、乗務員の名がムックさんであることは覚えた。
水を貰って自分の席に戻るとき、通路に人が立っていた。
僕が水を持っているのを見てどいてくれたが、僕は目の前が真っ暗になり動けなくなった。
今にも気を失いそうだ。
もし気を失ったら、二度と目覚めないかもしれない。
(ヤバいヤバい、今倒れたら水をぶちまける…)
僕は歩けない。
通路に立っていたおじさんは、せっかくよけたのに通っていかない僕を不思議そうに見ている。
数秒の後、僕は一歩一進み始めた。
なんとか自分の席にもどり、水を飲み干す。
だが、まだ水が足りない。
「お兄ちゃんどうしたの?顔が真っ白だよ」
ちょうど妹が話し掛けてきたので、水を注文してもらう。
「手元のボタンで乗務員呼べるよ」
「うん…分かってる…」
水を2杯飲んだが、それでもまだ足りない。
姪っ子の水も貰って飲んだ。
それでようやく脈が回復してきた。
視界が開け、音も聞こえてきた。
飲んだのはビール350ml缶の半分と、日本酒180ml。
ちょっと量を飲み過ぎたが、気圧が低くなっているせいもあるだろう。
視界が回復した後は、液晶テレビでソリティアや上海のゲームをクリアした。
頭も回るようになったし、これならもう大丈夫だ。
『乗客の皆様、当便は間もなくホーチミンに到着いたします』
出発から約7時間、機体が高度を下げ、旋回する。
窓の下にはベトナム随一の商業都市ホーチミンの、煌びやかな夜景が広がっている。
〜続く〜
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赤ちゃんはフライト大丈夫なの?君の方が大丈夫でなかったようですが、、、、、
けっこう1歳未満ぽい子も乗ってたよ。
ホント、僕が死ぬかと思った。あまりに脈が弱くて。