鎧(服)を脱ぎ捨て、太刀(タオル)を携え、敵本陣(男湯)に突入。
すぐさま、並み居る雑兵(客)の中を突き進み、一番奥に控える大将(シャワー)に駆け寄ると、一捻り(蛇口を)。
大将は血飛沫(お湯)を上げながらグニャリと崩れ落ちた。
僕は返り血(湯)を浴びながら、敵の首級(シャワーヘッド)を掲げた。
(あったか〜い☆)
武甲温泉は、スーパー銭湯のような温泉だ。
入浴料700円の券を買えば、平日なら一日楽しめる。
施設内には食堂や休憩できる大広間、個人部屋などがある。至れり尽くせりの温泉だ。
泉質は硫黄の匂いはほとんどしないので物足りないが、その分ゆっくりと浸かっていられる。
広い湯舟に浸かりながら考える。
今日の出来は、どうだったろうか?
何度も自転車を手押ししてしまったが、脚は攣らなかった。
これは、漕ぎ切れなかったものの、余力は残っていたということだろう。
手押しした挙句に脚が攣ってしまった箱根の時より進歩した気がする。
水分も途中で切れたが、後半は楽だったので何とか乗り切った。
水分やエネルギー補給もまあまあ上手くできたろう。
箱根の時はハンガーノックになってしまったのだから、それを回避できただけでも進歩だ。
日が暮れるまでに温泉に辿り着けたのも成功だ。ギリギリだったけど。
湯舟の中で太股をマッサージする。
(もう今日は坂を登らなくていいんだ)
お湯に浸かり、開放感に浸る。
通過した峠は、顔振峠、傘杉峠、飯盛峠、ブナ峠、刈場坂峠、大野峠の6つ。
気付かずに通り過ぎそうになった峠もあった。
本当は、大野峠から東に向かえばもう二つの峠を通れたが、今回はパスした。機会があればそっちにも行ってみよう。
湯舟に浸かりながら周りを見渡す。
老若、子供、たくさんの客がいる。
(みんなこの辺の人たちかな)
僕は今日は旅人だ。
僕と同じく山を越えて来た人は他にいるのだろうか?
最高到達地点は標高890mだが、たくさんのアップダウンがあった為、1200m近く登った気分だ。
武蔵横手駅から最初の顔振峠(500m)までが長く苦しかったが、それと対比するように後半は楽になった。
秩父方面への下りは、路面状況こそ良くないものの、急勾配で迫力があって良かった。
あんなに風の音を聞きながら走ったことはない。
逆から登ったら、さぞかしツラいだろう。
湯舟から出て、外にある露天風呂に向かう。
露天に浸かると、お湯がぬるい。
日も落ちて、気温も一気に低くなっているのだろう。空にはすでに星が瞬いている。
しばらく入っていたが、寒くなって室内の浴槽に戻った。
再び内湯に入ってすっかり長湯をすると、風呂から出て食堂に向かった。
そばと冷奴を注文。大広間で食べる。
この大広間にはステージがあり、客がカラオケを歌えるようになっている。
「次に歌いますは、○×からお越しの△□様。歌う曲は…」
そんな風に紹介アナウンスが流れ、おじさんやおばさんがステージ上で歌う。
歌い終わると、大広間で休んでいる人たちは拍手や歓声で応える。
なかなかのどかで良い。
食べ終わると、僕は西武秩父駅を目指してまた自転車を漕ぎ出した。
星がキレイだ。
山の稜線から下がシルエットになって、シルエットと対照に夜空のステージでは星が躍り輝いている。

夜の西武秩父駅。
時は12月28日。ほとんど誰もいない。
レッドアローの特急券を購入したが出発まで時間があったので、お土産の漬物を買ったり、自転車を折り畳んだりする。
秩父は僕の田舎だったので、この駅はとても懐かしいし居心地も良い。
秩父市街の方に歩いて行きたかったが、夜だし時間がないのでやめておいた。
きっと、ここにはまた来ることになるだろう。

池袋からやってきたレッドアロー号が秩父駅に到着する。
帰宅や帰省の人々が降りてくる。今夜から帰省ラッシュだ。
僕は入れ替えに乗り込み、午後7時25分、西武秩父駅を発車した。
車窓から来る時に走った山々が見えないかと思ったが、窓の外は真っ暗で、ガラスに映った自分の顔しか見えなかった。
(あんだけ走っても、ちっとも痩せねェ)
8時45分、池袋駅到着。
折り畳み自転車を袋から出す。
(今日は良く走ってくれたな。あとひとっ走りだ)
自転車を組み立てると、年の瀬の池袋へ漕ぎ出した。
向かう先は仕事場。
(僕が1時間半前まで秩父を走っていたとは、誰も思うまい!)
何だか少し顔がニヤけてくる。
池袋の街は眩しい。
カップルやら、ひたすらナンパする人やら様々だ。
夜空を見上げるも、街が明るく星はよく見えない。
だけど、
(この池袋の夜空も、秩父の星空も、すぐそこに繋がっているんだ!)
20分後には、僕は残りの仕事を始めていた。
この日の走行時間は計6時間強、総走行距離は57kmになった。
そして2006年は暮れていった。
〜秩父編・完〜






































































